松尾芭蕉も愛した加賀の名湯。渓谷美に心奪われる「山中温泉」
松尾芭蕉の著作に『温泉頌(しょう)』という文章があります。
松尾芭蕉が1689年7月27日から8月4日まで滞在した温泉地で、宿の主人に贈った掛け軸の文章ですね。そのなかで、松尾芭蕉が「扶桑(日本)三の名湯」と記し、今でいう群馬県の草津、兵庫県の有馬温泉と並んで評価した温泉地が、石川県の山中温泉になります。
そこで今回は日本各地を旅して周った松尾芭蕉が、三名湯のひとつとほめたたえる山中温泉の魅力を紹介します。
鶴仙渓の美しさと温泉街のにぎわいを一緒に楽しめる名湯
石川県西部には、加賀温泉郷と呼ばれる温泉エリアがあります。片山津温泉、粟津温泉、山代温泉とあわせて、加賀温泉郷の一角を成す名湯が、山中温泉になります。
加賀温泉郷の温泉地を並べてみると、隣接した場所に「山中温泉」と「山代温泉」という似たような名前の温泉があると分かります。年間の宿泊客と日帰り客の数も、山代温泉が78万人ほど、山中温泉が46万人ほどと、どちらも多くの人を集めています。
名前が似ているため石川県に住んでいる人でないと、なかなかその区別は難しく、混乱してしまいますよね。
「山中温泉」とは名前の通り、大聖寺(だいしょうじ)川が山を削り込んで作った渓谷沿いに長細く広がる、山の中の温泉地になります。その下流の平野部にある温泉地が「山代温泉」ですから、場所の区別はそれほど難しくはないはず。
山中温泉は山の中にある渓谷沿いの温泉地らしく、周囲は自然豊かな景勝地で、鶴仙渓(かくせんけい)と呼ばれる渓谷沿いに用意された約1.3kmの遊歩道やこおろぎ橋からは、四季折々の美しさを楽しめます。
また、渓谷を作る大聖寺川に沿うように南北に延びた目抜き通りのゆげ街道では、道路の拡張や整備、無電柱化、景観の統一などが進んでいます。
今では浴衣姿で散策を楽しむ若い女性、大きなリュックサックを抱える外国人旅行者など、さまざまな観光客の姿を多く見られるようになりました。
そのにぎわいに引き寄せられるように、通り沿いには約600mほどの距離に山中漆器や九谷焼のギャラリー、飲食店が軒を連ねており、連休などは温泉地の活気が伝わってきます。この温泉街の充実ぶりも、温泉選びでは重要なポイントになってきますよね。